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脳血管障害に対する鍼通電療法の実際

 -後遺症の改善と脳血流の増加反応について-

日本東洋医学系物理療法学会誌 第 42 巻 2 号 山口 智


https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsop/42/2/42_45/_pdf/-char/ja
【要 旨】

脳血管障害はわが国の死因第 4 位であり、有病者数も 110 万人を超え、地域医療、特に在宅医療において最も重要な疾患といっても過言ではない。近年、 その原因としては脳梗塞が年々増加し、患者全体の約 4 分の 3 を占める程になってきている。

当科においては後遺症である中枢性疼痛、痙性(痙縮) 、肩手症候群等の西洋医学的に積極的な治療法が少なく、リハビリテーションの阻害因子になりやすい患者が神経内科やリハビリテーション科、脳神経外科等から診療依頼がある。鍼灸治療は個々の症状に対する治療と QOL の向上を目的とした共通治療に大別し、特に鍼通電療法を基本に実施している。海外の報告や当科の臨床研究の成果より、後遺症や合併症に対し、概ね期待すべき効果が得られている。また、鍼治療を早期から開始することで、より有効性が高いことも示されており、急性期における鍼治療の有用性についても、今後検討する必要がある。

脳血管の神経支配は上頸神経節由来の交感神経や、翼口蓋神経節や内頸神経節、耳神経節由来の副交感神経に加え、感覚神経である三叉神経の関与が明らかとなり、脳血管障害や片頭痛の臨床に重要な役割を果たしている。
鍼灸治療においても、顔面部からの刺激が極めて有効性の高いことを痛感している。
鍼刺激による脳血流の増加反応は、患者と健常者、さらに患者でもその程度により反応に差異のある事が明らかとなり、こうした鍼治療による生体の正常化作用が伝統医療の特質と考えている。




【以下、本文中より抜粋】


II.当科における鍼通電療法
脳卒中に対する鍼灸治療は、主に慢性期が多く、後遺症に対する治療が中心である。
うした後遺症には、片麻痺、中枢性疼痛、肩手症候群、嚥下障害、言語障害、注意障害、記憶障害、膀胱直腸障害、認知症等が挙げられるが比較的鍼灸臨床で取り扱う頻度の高い下記の項目について述べる 


1.中枢性疼痛
中枢性疼痛は体性感覚系の経路が障害されたことによっておこる求心路遮断性疼痛と言われており、 疼痛に起因する障害部位は主に視床とされているが、大脳皮質や脳幹部の病変でも疼痛は発症する。

その主な因子は、損傷の大きさではなく、脳の障害部位であり脊髄 ‐ 視床 ‐ 大脳皮質路が最も重要である。

鍼治療は、上肢や下肢の痛みや痺れに対し、症状を訴える末梢側の経穴と体幹に近い中枢側に取穴する。

上肢では、合谷と手三里または内関・神門、 

下肢では、太衝または太渓・足三里・陽陵泉を刺鍼部位とすることが多い。

刺激量は、 感覚過敏の患者が多いため弱刺激(1番鍼で置鍼など)から開始し、

患者の体力や体調、症状の程度により増強する。鍼通電療法を採用することが多く、1Hz で筋または神経を目標に 10~ 20 分間通電する。

神経を目標とした刺激は、支配部位の皮膚に刺激感および支配筋の筋収縮を確認する。

患側と健側に同様の治療を行うが、患側は神経障害の程度により反応が異なるため、刺激量を注意しなければならない。

ただし、鍼通電療法の 1Hzで効果のない場合は、高頻度(30~ 100Hz)に変更することもある。


2.痙縮
痙性抑制を目的とした鍼灸治療は、痙性筋に刺激するよりも、その拮抗筋を刺激することにより痙性を抑制する(相反性神経支配) 。

上肢では、上腕三頭筋上の手五里、前腕の手指関節伸筋群上の手三里、

下肢では、前脛骨筋上の足三里、長腓骨筋上の陽陵泉を取穴し

高頻度(30~ 100Hz)の間欠で鍼通電療法を10~ 15 分間施行する。

3.患側肩関節痛
運動鍼療法を中心とする。

上腕二頭筋の長頭腱・短頭腱に刺鍼したまま他動的に肩関節を屈曲・外転運動を行い、

次に棘上筋部の秉風・巨骨、棘下・小円筋部の天宗・肩貞に刺鍼したまま外転・内転運動を行う。 

また、難治性の肩関節痛には肩甲上神経と肩甲下神経の両神経を目標とした雲門穴への深刺 (約 5㎝)を実施し、

鍼通電療法により棘上筋や棘下筋、さらに通常直接の刺鍼は困難である肩甲下筋の筋収縮を確認することで、臨床的に高い効果を得ている。

一方、肩手症候群を合併している場合には、
缺盆や臂臑を取穴し、それぞれ腕神経叢や橈骨神経を目標に刺鍼し、さらに、手指の合谷や内関・手三里等を加えることもある。

4.共通治療
上記の後遺症に対する治療に加え、脳血流の改善等を目的に脳血管と三叉神経が関連していることから、

三叉神経第 1 枝を目標とした眼窩上切痕部や同第 3 枝の下関への刺鍼を頻用し、また健側上下肢の要穴への施術を加えている。

さらに合併する愁訴に対する治療を併せて施行することが大切である。

脳卒中に対する共通治療は、主に健側への鍼灸治療が効果的である。

患側は神経障害の程度により反応が異なるため、刺激量を注意しなければならない。



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以上、本文内からの引用(改行等一部改変)終わり

自分自身も件数は少ないですが、脳梗塞後の訪問マッサージや訪問鍼治療をやっているので、本文献からも学ぶ方が多々あった。 

本論文より、
「痙縮」
主動作筋ではなく拮抗筋を狙う。

「脳血流」
頭顔面部の三叉神経第1枝や3枝を狙う。

「(患側)肩関節痛」
難治性の場合、雲門穴から約5センチ刺入して肩甲下神経や肩甲上神経へのアプローチを行う。

↑これに関しては5センチ刺入すると血管に刺してしまいそう。エコーで観ると刺入途中に大きい血管に出くわすので、僕ならそこで引き返すのですが、エコー観てない先生は血管の存在は置いてけぼりで、約5センチ刺入と書いてしまうと、約5センチ程度刺入してしまいそうな印象です。狙うのは、どこにどの様に走行している神経なのか?それを意識出来なきゃ刺すべきじゃないと思いました。

きちんとしたリスク(今まで刺鍼しても問題かなったので大丈夫です!は無し)とベネフィットを天秤にかけてアプローチを選択する必要がありますね。


訪問先の患者さんに早速いくつかの治療を試して見ようと思います。

Higuchi